この記事でわかること
- 2023年12月の法改正で新設された「管理不全空家」と従来の「特定空家」の違い
- 特定空家に指定されると固定資産税が最大6倍になるリスク
- 特定空家に指定されないための具体的な管理方法
- 特定空家に指定された場合の対応策
- 空き家の状態を簡単に診断できるセルフチェックリスト
※本記事の内容は2025年3月時点の情報に基づいています。特定空家や管理不全空家の判断基準、固定資産税の増額適用条件、補助金制度の内容は自治体ごとに異なるため、必ずお住まいの自治体の最新情報をご確認ください。
1. 空き家を放置すると固定資産税が増える?
近年、日本の空き家問題は深刻化しており、国や自治体は対策を強化しています。
その中でも特に注意が必要なのが、2023年12月の法改正で新たに導入された「管理不全空家」と、従来から存在する「特定空家」の2つの区分です。
特に「特定空家」に指定されると、固定資産税の優遇措置(住宅用地特例)が解除され、税額が最大6倍に増加する可能性があります。
例えば、これまで年間2万円の固定資産税だった土地が、12万円に跳ね上がることもあります。
出典:総務省 固定資産税の住宅用地特例について
https://www.soumu.go.jp/main_content/000448731.pdf
また、新たに設けられた「管理不全空家」に指定されると、特定空家になる前に自治体から指導が入り、所有者に改善を求められるようになりました。
この段階では税負担の増額はありませんが、改善しない場合、最終的に「特定空家」に移行し、税負担や強制撤去(行政代執行)のリスクが高まります。
2. 「管理不全空家」と「特定空家」とは?
管理不全空家とは?
「管理不全空家」とは、2023年12月の改正「空家等対策の推進に関する特別措置法」により新設された区分で、特定空家に指定される前の段階にある空き家を指します。
管理不全空家の特徴
- 1年以上人が住んでおらず、適切な管理が行われていない
- 現時点では周囲に重大な悪影響を及ぼしていないが、放置するとリスクがある
- 地方自治体が所有者に対し、適切な管理を求める
この段階では固定資産税の増額はありませんが、改善が見られない場合、特定空家に移行する可能性が高くなります。
特定空家とは?
「特定空家」とは、放置することで周囲に重大な悪影響を及ぼしている空き家のことを指します。
自治体が「管理不全空家」と判断した後、改善が見られないと「特定空家」に移行する可能性が高くなります。
特定空家に指定されるとどうなる?
- 固定資産税の軽減措置が解除され、最大6倍に増額(自治体からの「勧告」を受けた後)
- 行政からの指導が入り、改善しない場合は過料(最大50万円)
- 最終的に行政代執行(強制撤去)の対象となる可能性
3. 管理不全空家・特定空家の指定基準
管理不全空家や特定空家は、地方自治体が判断し、指定されます。
具体的な基準は以下の通りです。
管理不全空家の指定基準
- 屋根・外壁の老朽化が進み、軽微な損傷が見られる
- 郵便物やチラシが溜まり、長期間放置されている状態
- 庭木や雑草が繁茂し、近隣住民に迷惑をかけている
- 軽微なゴミの不法投棄が見られる
この段階では、特定空家ほど深刻な状態ではありませんが、自治体が「このまま放置すると特定空家になる」と判断した空き家が指定されます。
特定空家の指定基準
- 屋根や壁の崩落の危険がある(倒壊の恐れがある)
- 害虫や害獣が発生し、衛生環境を著しく悪化させている
- 庭木が伸び放題で、周囲の景観を著しく損なっている
- 所有者が長期間管理を放棄し、不審者が出入りしている
4. 特定空家に指定されるとどうなるのか?
特定空家に指定されると、以下のような段階的な指導が行われます。
特定空家の行政指導の流れ
- 管理不全空家の指定(新設)
- 自治体が所有者に管理改善を求める
- この段階では税負担の増額はなし
- 助言・指導
- 自治体が改善を求め、指導を行う
- 勧告
- 所有者が改善しない場合、「勧告」を受ける
- 勧告を受けると、固定資産税の軽減措置が解除され、最大6倍に増額
- 命令
- さらに改善しない場合、「命令」が出され、従わないと50万円以下の過料が科される可能性
- 行政代執行(強制撤去)
- 自治体が空き家を撤去し、費用(数百万~数千万円)を所有者に請求
5. 管理不全空家・特定空家に指定されないための具体的な管理方法
特定空家に指定されると、固定資産税の増額や行政指導、最悪の場合は強制撤去(行政代執行)のリスクがあります。
しかし、日常的な管理をしっかり行うことで、「管理不全空家」にも指定されず、安全に空き家を維持することが可能です。
1. 定期的な点検・メンテナンス
空き家を適切に管理するためには、最低でも年2回(春・秋)は建物の状態を点検することが重要。
特に、台風や大雨の後には追加の点検を行い、破損や損傷がないか確認することが推奨される。
点検すべき主なポイント
- 屋根・外壁
- ひび割れ・剥がれ・崩れかけがないか確認する
- 雨漏りの兆候がないかチェックする
- 窓・玄関ドア
- 施錠が確実にできるか、ガラスの破損がないか確認する
- 水回り
- 水道の漏れがないか、カビ臭がしないかチェックする
- 定期的に水を流し、配管の詰まりや臭気の発生を防ぐ
- 庭・敷地
- 雑草の伸び、害虫・害獣の発生がないか確認する
- 倒木や枝の落下が危険な状態になっていないか確認する
- 郵便ポスト
- チラシや郵便物が溜まっていないかチェックする
- 長期間放置しないよう転送サービスを利用する
対応策
- 軽微な損傷がある場合は、DIYや地域の工務店に依頼して早めに補修する
- 定期的に換気を行い、湿気やカビの発生を防ぐ
- 郵便物は転送サービスを利用し、長期間放置しない
2. 遠方に住んでいる所有者向けの管理方法
空き家が遠方にあり、頻繁に訪問できない場合は、定期的な管理を誰かに委託するのが現実的な選択肢となる。
活用できる管理方法
- 家族や知人に管理を依頼する
- 定期的に訪問し、郵便物の回収や換気をお願いする
- ご近所に住んでいる親族や信頼できる人に頼むのが理想
- 空き家管理サービスを利用する
- 月額5,000円~15,000円程度で定期巡回を行うサービスがある
- 主なサービス内容として、外観チェック(屋根・外壁・庭の状態確認)、施錠確認、防犯対策、通気・換気、雨漏り確認、庭の手入れなどがある
参考: 国土交通省 空き家管理業者ガイドライン https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001750009.pdf
3. 費用対効果の高い維持管理の方法
長期間放置することを前提とせず、最低限の管理コストで維持する方法を考えることが重要。
最低限行うべき管理
- 屋根・外壁の補修
- 損傷が拡大すると高額な修繕が必要になるため、早期対応を行う
- 定期的な換気
- 湿気対策として、最低でも3か月に1回は行う
- 庭木の剪定・除草
- 景観悪化や害虫発生のリスクを防ぐため、年2回は実施する
費用を抑えるポイント
- DIYで対応できる部分は自分で行い、必要な部分のみ業者に依頼する
- 空き家管理サービスは年間契約よりスポット契約を活用し、頻度を減らしてコスト削減する
- 自治体の補助金を活用し、修繕費用を抑える
4. 自治体ごとの補助金制度の活用例
多くの自治体では、空き家の修繕や解体を支援する補助金制度を設けている。
主な補助金制度(自治体ごとに異なる)
- 空き家修繕補助金
- 老朽化した空き家のリフォーム・修繕に対する補助
- 例:大阪市では修繕費の50%(上限50万円)を補助
- 参考:大阪市 空き家の活用支援制度 https://www.city.osaka.lg.jp/toshiseibi/page/0000470652.html
- 解体補助金
- 老朽化が進んだ空き家の解体費用を一部補助
- 例:東京都では解体費用の2/3(上限100万円)を補助
- 参考:東京都 空き家除却補助制度 https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/akiya/hojo
- 空き家活用支援
- 住み替えや賃貸活用のための改修費補助
- 例:神奈川県では空き家を賃貸住宅として活用する場合、改修費用の1/2(上限80万円)を補助
- 参考:神奈川県 空き家対策制度 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/zm4/akiya/index.html
6. 万が一、特定空家に指定された場合の対応策
特定空家に指定されると、固定資産税の増額、行政指導、最悪の場合は行政代執行(強制撤去)のリスクが生じます。
しかし、適切な対応を取ることで、リスクを最小限に抑え、特定空家の指定を解除することが可能です。
1. 指定を受けた直後にすべき初期対応
特定空家に指定された場合、最も重要なのは 「自治体との迅速なコミュニケーション」 です。
指導を受けたら、すぐに自治体に連絡し、状況を確認しましょう。
初期対応のポイント
- 特定空家の理由を確認する
- 自治体から「特定空家」と判断された具体的な理由(倒壊の危険、衛生問題、景観の悪化など)を確認する
- 口頭だけでなく、書面(通知書)での詳細確認を行う
- 改善計画を立てる
- 修繕・清掃・解体など、自治体が求める改善策を整理し、具体的な計画を立てる
- 自分で対応できるのか、業者に依頼するべきなのかを判断する
- 自治体と相談する
- 計画を自治体に報告し、改善期限を交渉する(短期間で対応が難しい場合、延長を相談できる)
- 補助金制度の適用可否を確認(修繕・解体に活用できる補助金があるか調査)
2. 税負担増を最小限に抑えるためのタイムライン
特定空家に指定されても、すぐに固定資産税が増額されるわけではありません。増税が実際に適用されるのは、自治体から「勧告」を受けた後です。
したがって、勧告までの間に適切な対応を行えば、税負担の増加を回避できる可能性があります。
タイムラインの流れと対応ポイント
- ステップ1:特定空家に指定(通知)
- まず自治体から「この空き家は特定空家に該当する」と判断され、通知が届きます。
- この時点ではまだ税負担の増額はありません。
- → 対応策:通知内容を確認し、直ちに現地調査・改善計画を立てる。
- まず自治体から「この空き家は特定空家に該当する」と判断され、通知が届きます。
- ステップ2:助言・指導
- 自治体から、改善に向けた助言や指導が行われます。
- 指定後すぐにこのフェーズに入ることが一般的です。
- → 対応策:具体的な修繕・管理のスケジュールを自治体に提出し、協議を行う。
- 自治体から、改善に向けた助言や指導が行われます。
- ステップ3:勧告(ここで税負担が増加)
- 所有者が対応を怠った場合、「勧告」が発出され、住宅用地特例が適用除外となり、固定資産税が最大6倍に。
- → 対応策:勧告前に改善作業を実施し、作業の証拠(写真・報告書)を提出することで勧告を回避できる場合がある。
- 所有者が対応を怠った場合、「勧告」が発出され、住宅用地特例が適用除外となり、固定資産税が最大6倍に。
- ステップ4:命令・過料
- 勧告後も対応が不十分な場合、「命令」が出され、従わなければ最大50万円の過料が科される可能性があります。
- → 対応策:命令が出される前に、追加の改善措置を実施し、再報告する。
- 勧告後も対応が不十分な場合、「命令」が出され、従わなければ最大50万円の過料が科される可能性があります。
- ステップ5:行政代執行(強制撤去)
- 命令にも従わない場合、行政が強制的に建物を撤去。撤去費用は所有者負担(数百万円単位になることも)。
- → 対応策:最悪の事態を避けるためには、命令の前に自発的な解体・売却などの検討が必要。
- 命令にも従わない場合、行政が強制的に建物を撤去。撤去費用は所有者負担(数百万円単位になることも)。
対応のポイント
- 「勧告」が出る前の対応が分岐点
勧告前であれば、行政側も「協力的な姿勢」を評価してくれる可能性があります。
修繕計画や委託書類などを文書で明示して提出することで、猶予や見直しが得られるケースもあります。 - 改善の証拠は残しておく 修繕や清掃を行った場合は、作業写真、業者の領収書、報告書などを記録して保管しておきましょう。
このように、タイミングを見極めて迅速に行動することが、特定空家による税負担増を回避する鍵となります。自治体とのコミュニケーションを怠らず、計画的に対応を進めましょう。
7. 特定空家にならないためのセルフチェックリスト
特定空家に指定されると、税負担増や行政代執行のリスクが生じます。
しかし、日常的な管理をしっかり行うことで「管理不全空家」や「特定空家」への指定を回避できます。
以下のチェックリストを活用し、空き家の管理状況を確認してみましょう。
セルフチェックリスト
以下の項目に「はい」「いいえ」で回答してください。
「いいえ」が3つ以上ある場合、管理不全空家や特定空家のリスクが高まります。
1. 建物の安全性チェック
- [ ] 屋根や外壁にひび割れや剥がれ、崩れかけはないか?
- [ ] 窓や玄関ドアの施錠が確実にできるか?
- [ ] 雨漏りの跡やカビ臭はないか?
- [ ] 水道・電気・ガスの設備に異常はないか?
2. 衛生・景観管理チェック
- [ ] 建物周辺にゴミや不要な物が放置されていないか?
- [ ] 雑草や庭木が伸び放題になっていないか?
- [ ] 害虫や害獣の被害(ネズミ・ハチ・シロアリ・カラスなど)はないか?
3. 防犯・管理状況チェック
- [ ] 郵便ポストにチラシや郵便物が溜まっていないか?
- [ ] 建物や敷地に不審者の侵入跡はないか?(鍵が壊れている、ゴミが増えているなど)
- [ ] 防犯対策(人感センサーライトや防犯カメラなど)は施されているか?
4. 近隣住民との関係チェック
- [ ] 近隣住民から苦情や指摘を受けたことはないか?
- [ ] 倒壊や火災のリスクについて、近隣から不安の声が上がっていないか?
- [ ] 近隣住民との連絡手段(電話・メール)が確保されているか?
5. 空き家の将来計画チェック
- [ ] 今後の活用(売却・賃貸・リフォームなど)を検討しているか?
- [ ] 相続人や家族と空き家の今後について話し合ったことがあるか?
- [ ] 管理が難しい場合、空き家管理サービスの利用を検討したことがあるか?
チェック結果と対応策
「いいえ」が3つ以上あった場合、管理不全空家や特定空家のリスクが高い状態です。
特定空家に指定される前に、早急に改善することをおすすめします。
1〜2項目が「いいえ」の場合
- 軽度の管理不足
- 定期的な点検を行い、問題が大きくなる前に修正
- 近隣住民との関係を維持し、トラブルの芽を摘む
3〜5項目が「いいえ」の場合
- 中程度の管理不足
- 専門業者(リフォーム・除草・害虫駆除など)に相談し、対応を進める
- 自治体の空き家対策窓口に相談し、支援制度を活用する
6項目以上が「いいえ」の場合
- 特定空家に指定される可能性が高い状態
- 早急に修繕・管理を実施し、自治体の空き家対策担当課に相談
- 空き家管理サービスを利用し、定期的な管理を外部委託することを検討
8. まとめ
2023年12月の法改正により、「管理不全空家」という新たな区分が導入されました。
これにより、特定空家に指定される前に自治体が改善を求める仕組みが強化され、空き家の所有者に早期対応が求められています。
本記事のポイント
- 「管理不全空家」とは、特定空家になる前の段階であり、早めに適切な管理を行うことで特定空家への移行を防ぐことができる。
- 「特定空家」に指定されると、固定資産税の増額や行政指導、最悪の場合は行政代執行(強制撤去)のリスクがある。
- 自治体による指導は「助言・指導」→「勧告」→「命令」→「行政代執行」という流れで進むため、できるだけ早期に対応することが重要。
読者が取るべきアクション
- 自分の空き家が「管理不全空家」や「特定空家」のリスクがあるかをチェック
- 定期的な点検や管理を行い、空き家の劣化を防ぐ
- 自治体の補助金制度を活用して、修繕や解体の負担を軽減する
- 賃貸・売却・活用などの選択肢を検討し、長期的な対策を立てる
- 空き家管理サービスを活用し、遠方に住んでいても適切に維持する
特に、「管理不全空家」指定の段階で早めに対応することが、特定空家への移行を防ぐ最も有効な手段となります。
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